専門家でも未来のことは本当にわからない

GPUと私

研究というものに関わり始めたのは、私が20歳であった2002年頃でした。

その時のテーマは先生の言われるがままにGPGPUに関するものでした。

決まった処理しか行うことのできなかったGPUがプログラム可能になり、かつ32ビットのデータを扱うことができるようになったことにより、GPUをグラフィックス以外の処理に用いて計算の高速化をしようという雰囲気が生まれていたころです。

まだ当時は短いプログラムしか実行できず、またGPUでのプログラミングはCPUのそれと比較して面倒であり、私はあまりGPUプログラミングが好きではありませんでした。

特に当時は『CPUからGPUに処理を移すことで得られる計算速度向上』が、すべてCPUで計算していれば必要のない『CPUとGPU間のデータ転送速度の遅さ』に簡単に食われてしまい、全体として計算速度が上がった感じがいまいちしなかったのも好きでなかった要因です。

できるだけCPUとGPU間のデータ転送をなくすような方法を考えるといった、かなり地道な作業がGPUの処理速度を活かすには必要で、これをやっていてもあまり未来がないような感じもしていました。

また具体的には誰だったか忘れましたが、当時high-performance computingで有名な大学の先生も、将来的にはGPGPUは来ないだろうと予測して、私の指導教官が軽くショックを受けていたのも覚えています。

しかし15年ほどたった現時点でこの予測は外れています

現在では例えばCPU上で動く画像処理のプログラムを、そのまま何の工夫もせずにGPUに移植するだけでCPUで計算するのが馬鹿馬鹿しいくらいに処理速度が上がります

GPUがいくら早くなろうとも中毒的なゲーマーにしかその恩恵が感じられなかったのも今は昔で、GPGPUは機械学習という応用分野で産業とつながり、仮想通貨のマイニングによる需要急増のために本来GPUを必要としているグラフィックスアーティストやプログラマがGPUの在庫不足による値段の高騰を嘆く、といった状況が来るとは10年前には誰も想像できなかったと思います。

 

 

研究者の未来予測が当たるわけではない

同じ2003年頃、私はニューラルネットワークという科目を大学で履修しました。

排他的論理和のような離散的な論理演算を連続的な関数を組み合わせることで表現できるなど、その不思議さにとても魅了されたのを覚えています。

授業の最後のプロジェクトではこちらのお絵描きパズルを自動で解くプログラムと、自動着色のプログラムを書いてみました。

ニューラルネットワーク自体が非常に強力であることは今では疑いのない事実ですが、これに関しても当時とあるアメリカのコンピュータビジョンの研究者が、自著でニューラルネットワークは来ないだろうと書いていたのを覚えています。

先ほどのGPUの話もそうですが、どんな分野が産業界で花開くかを予測するのは専門家にもとても難しいのだと思います。

 

時代の雰囲気は一つのプロダクトの成功で簡単に変わる

私が初めて渡米した2006年頃はスマホは世界に存在せず、日本の携帯電話は格好いい携帯電話でした。

また当時の人々が描く未来のコンピュータの利用方法は、現在でも主流であるアプリをクライアント側(スマホやコンピュータ)にダウンロードするのではなく、クラウド側にアプリケーションを置き、クライアント側はただのユーザーインターフェースになるだろう、というものだったのを覚えています。

私自身もネットワークの速度やコストがボトルネックにならなくなるにつれて、そのスタイルがより未来的だと思っていました。

しかしiPhoneの登場はその流れを完全に断ち切った感があります。

スマホでの処理はブラウザ上で行うのではなく、アプリを介して行うのが今では主流です。

しかし2014年のHTML5の登場により、GPUを用いた処理がブラウザ上でも容易になり、この流れは数年後にまた変わるかもしれません。

また2018年現在、コンピュータサイエンスはその技術者の待遇を含めてとても花のある分野ですが、何度か書いていますが私が学生だった2000年初頭の日本ではそうではありませんでした。

当時は『プログラマ=技術に興味のない人たちに振り回される徹夜・休日出勤を強いられるIT土方』であり、東京大学でも情報工学に進学する学生が減っていると先生が嘆いていたのを覚えています。(現在はどうなのでしょうか?)

当時の私自身は、自分のやっていることはもっといいもののはずだという気持ちがありました。

このまま日本にいてもいいことなさそうだなと思ったのは、私がアメリカに行くことにした理由の一つです。

Twitterを見ていると日本のプログラマを取り巻く環境もだいぶよくなってきたような印象がありますが、みなさまいかがでしょうか?

日本のプログラマの皆さまが幸せな毎日を過ごしていることを願っております。

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プロフィール

yu. (Ph.D. UC Berkeley)   

慶応大学環境情報学部を首席で卒業。日本のベンチャー企業で働いたのち、アメリカにわたり、カリフォルニア大学バークレー校にて博士号を取得。専攻は機械工学、副専攻はコンピュータサイエンス。卒業後はシリコンバレーの大企業やスタートアップでプログラマとして働いていました。現在はフリーランス。毎日好きなものを作って暮らしてます。

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